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~お婆ちゃん家への道~


少女「今日もお母さんにお使いを頼まれちゃったな。早くお婆ちゃんの家に行かないと……今日も機嫌が悪いんだろうなぁ…」

猟師「ようお嬢ちゃん。今日もあの腐れババアの家に行くのかい?」

少女「あ、猟師さん。こんにちは。むー、お婆ちゃんは腐れババァじゃないよ」

猟師「俺にとっちゃ腐れババアだね。お嬢ちゃんも気を付けなよ。あのババァ…金のためなら何でもするからな」

少女「お婆ちゃんは、そんなことしないよ……ただ、私が悪い子だから、機嫌が悪いだけで」

猟師「いい子だなぁ…何かあったら、すぐに俺を呼べよ。飛んでいって、相手をこの銃でハチの巣にしてやっからよ」

少女「ふふふ、期待してるね。バイバイ」


~帰り道~


少女「やっぱりお婆ちゃん、機嫌が悪かったなぁ…私、そんなに悪い子なのかな…あれ?あそこにいるのは…」

狼 「くそ、失敗したぜ……まさか、トラバサミに足を噛まれるなんて…痛ぇ」

少女「狼さんだ…ちょっと怖いけど、足を挟まれてて痛そうだな…よし!」

狼 「あん?なんだ、見世物じゃないぞ。どっかいけ」

少女「狼さん、足挟まれてるんでしょ?とってあげるね」

狼 「は?なんでそんなことするんだ」

少女「だって、痛いんでしょ?」

狼 「だからって…俺は狼だぞ?」

少女「うん。でも、痛いのには変わらないでしょ?だから、とってあげる……うんしょ…っと!」

狼 「……助かった。ありがとよ」

少女「どういたしまして」

狼 「……何か礼をしてやる。何でも言ってみろ」

少女「…え、いいの?じゃあ、私のこと食べないでほしいな。目印に、明日から赤い頭巾をかぶってこの道を歩くから」

狼 「……わかった。お前のことは食わねぇ」

 

~数日後~


狼 「はぁ…なぜかあの赤い頭巾の少女が気になる。なんか、風邪でもひいちまったかな…」

祖母「ああ忌々しい…」

狼 「ん?あそこにいるのは…あいつの祖母か」

祖母「あのガキめ…年々かわいくなっていって…ああ、忌々しい…私は年を取るばかりだっていうのに…」

狼 「ふん、あの人間の女は欲深そうだな…」

祖母「そうだ、あのガキに世の中の厳しさってのを教えてやろうかね…」

狼 「……なんだと?」

祖母「もうそろそろ、ここら辺に人買いの男が来る…そいつに売り払ってやろう」

狼 「……それは無理だな」

 

(SE:草をかき分ける音)

祖母「だ、誰だい!」

狼 「なぜなら、お前は俺に喰われるからだ!」

祖母「ぎ、ぎゃぁぁぁぁ!」


~食後~


狼 「はぁ……はぁ……不味い肉だ」

猟師「なんだ?腐れババァの叫び声がしたから来てみれば…お前は、森の狼か」

狼 「ああ……お前は猟師だな」

猟師「そうだ。その口周りの血…あのババァを食ったのか?」

狼 「ああ、あの人間の女は赤い頭巾をかぶった、心優しい孫娘を売ろうとしていた」

猟師「なんだと!あのババァ…どこまでも腐っていやがる…あの娘を助けてくれたのには礼を言う。

だが…お前を、撃たなきゃいけないな。人食い狼は、放ってはおけない」

狼 「……撃ってもいい。だが、一つだけ頼みを聞いてくれ」

猟師「なんだ?」

狼 「あの娘のことだ。祖母に裏切られていたと知れば、傷つくだろう…だから、一芝居、うっておきたい」

猟師「芝居だと?」

狼 「俺は悪い狼だ。少女の祖母を食い、そして、少女も食おうとする…そして、お前が現れ、俺を撃つ…この芝 居を頼みたい」

猟師「それは…」

狼 「それくらいしか、少女の心を深く傷つけない方法はない…頼む」

猟師「……わかった。っと、あの子の足音が聞こえる…俺は隠れるぞ」

狼 「頼んだぞ……はぁ……おえ、不味い。老婆の肉なんて食うもんじゃないな」

少女「お、狼…さん?」

狼 「お前は」

少女「なに、してるの?ま、まさか、わたしの、お、おばあちゃんを…たべ、たの?」

狼 「……ああ、狼だからな。人を食って何が悪い?」

少女「あ、あああああ……」

狼 「…お前、美味そうだな。さっきの不味い老婆の肉の口直しに、食ってやる」

少女「そ、そんな…約束したのに…ひっ…こ、来ないで。誰か。誰か!」

(SE:銃声)

狼 「……ぐぁ!」

猟師「大丈夫か!」

少女「猟師さん…」

猟師「ほら、人食い狼は俺がなんとかする、早く逃げろ!」

少女「は、はい」

猟師「……いったな。急所は外したが…痛いか?」

狼 「ああ、痛い…胸が、な。」

猟師「胸は撃っていないが…大丈夫か?」

狼 「ああ、なんとかな…」

猟師「よかった…だが、終わったこととはいえ、やはりお前が悪者になる理由はないとは思うが…」
 
狼 「ふん、あの少女の祖母を殺したことに違いはない。お前こそ、俺にとどめを刺さなくていいのか?」

猟師「ああ?確かに、俺は人食い狼とかを撃つのが仕事だ。で、もう人食い狼は撃っただろ?

お前は、もう人は襲わない…なら、とどめまで刺すのは、弾の無駄さ」

狼 「屁理屈だな…」

猟師「人の事を心配する狼よりはおかしくは無いだろ?」

狼 「違いない……じゃあな」

猟師「これから、どこ行くんだ?」

狼 「……あの少女に会わないよう、できるだけ遠くにな」

猟師「そうか。気をつけろよ。もう会うことはないと思うが…達者でな」

役決め表

・狼 :
・猟師:
・少女:
・祖母:

あらすじ:少女に助けられた狼は、少女のために祖母を殺した。そして……

・狼  :♂・少女に助けられ、祖母を殺した後、少女が気負いをしないよう芝居を打つ
・猟師:♂・少女の事を娘のようにかわいがっている。狼のことは嫌いではない
・少女:♀・心優しいが、甘いところのある少女。赤ずきんをかぶり始めた。
・祖母:♀・金や自分の心を満たすためなら孫すら売るほどに冷酷な女

登場人物

​作者:ミスターアット

​狼の一芝居

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